ディー・ストレンジ=ゴードンは、本当に農家になった。

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ドジャース時代の2014年に64盗塁でメジャー全体の盗塁王となり、マーリンズへ移った2015年には打率.333でナ・リーグ首位打者を獲得した。二度のオールスター選出、ゴールドグラブ賞、シルバースラッガー賞。現役時代のゴードンを象徴したのは、細身の体と球場を一気に横切るスピードだった。

現在、その足場はフロリダ州フォートミードにある。故郷エイボンパークに近い場所で、ゴードンは水耕栽培(土を使わず養液で野菜を育てる方法)を中心とするブラック・シープ・ファームズ(Black Sheep Farms)を運営している。育てているのはレタス、ロメインレタス、ケール、コラードグリーンなどの葉物野菜だ。

ただし、「引退後に思いつきで農業を始めた」という話ではない。

農場の構想が始まったのは2021年。ゴードンはまだ現役復帰を目指し、ブルワーズ、カブス、パイレーツの傘下でプレーしていた。中部フロリダに土地を購入し、当初は牛やロバを飼い、自身の練習にも使える場所として整備した。そこから、家族に形のあるものを残す事業として農業へ進んだ。

最初に考えたのは、アクアポニックス(魚の養殖と植物栽培を組み合わせる循環型の農法)だった。しかし計画はうまく進まず、水耕栽培へ切り替えた。フロリダの柑橘産業を苦しめる病害や気候環境の変化を見て、屋外の土だけに依存しない栽培方法に可能性を感じたという。

2022年、ゴードンはナショナルズでメジャーに復帰した。22試合で打率.305。まだ選手として結果が残っていた時期だったが、本人は後に、野球へ注いでいた知識と時間を農場の構想へ振り向けることを決め、球団にリリースを求めたと振り返っている。

これは、仕事を失った選手が次の職業を探した話とは少し違う。

ゴードンは現役時代から、「野球選手でいる時間より、人間として生きる時間のほうが長い」と考えていた。ユニホームを脱いだ後も残る役割を、選手生活が終わる前から探していたのである。

野菜を売るだけではない農場

農場で生産された野菜は、地域の学校や病院、事業者へ届けられている。2026年の取材でゴードンは、飲食店への販売よりも、学校や病院へ野菜を提供し、子どもたちが食料を持ち帰れることを優先していると説明した。

農場を母体とする非営利団体ブラック・シープ・ギブズ(Black Sheep Gives)は、自らの活動実績として、水耕栽培した農産物を1万5000ポンド以上寄付し、食事や生活用品の支援で1500以上の家庭に関わってきたとしている。農業だけでなく、少年野球、バスケットボール、指導者による講演や教育活動も組み合わせている。

ゴードンはハイランズ郡ボーイズ&ガールズ・クラブ(地域の青少年支援団体)の理事長も務め、クリスマスや感謝祭の食事、学用品の配布などに携わっている。農場では将来的に50人規模の常勤雇用を生み、地域の世帯所得を引き上げる構想も示している。

2026年には、生産能力を高める約2万平方フィートの施設拡張も計画された。葉物野菜だけでなく、トマトやイチゴへ品目を広げ、栽培研究と地域への供給を増やす構想だ。完成済みではなく、2026年中の完成を見込む拡張計画として報じられている。

農家にはなった。だが、農業だけをしているわけではない。

農場に野球が戻ってきた

ゴードンは農場を拠点に、ザ・ファーム・リーグ(The Farm League)という野球活動も始めた。

ここに集まるのは、契約が保証された有名選手ばかりではない。大学を出たばかりの選手、独立リーグや海外で次の所属先を探す選手、故障から復帰途中の選手、代表チームへの参加を目指す選手たちだ。通常のリーグ戦や有料のショーケースとは異なり、試合形式で体を動かし、映像を残し、次の機会に備える場所として設計されている。

ゴードン自身も、ファーム・リーグを選手の最終目的地ではなく、次へ進むための「踏み石」にしたいと語っている。所属先を失った選手が、完全に野球から切り離される前に、実戦感覚と人との接点を保てる場所だ。

これはゴードン自身が経験した空白とも重なる。

2021年から2022年にかけて、ゴードンは複数の球団を渡り歩いた。実績のある選手でも、メジャーの枠から外れれば、練習場所、試合、映像、次の契約先との接点は急速に失われる。ファーム・リーグは、その制度の隙間を埋める試みでもある。

「元野球選手の農場」では終わらない

ブラック・シープという名前は、羊を育てているから付けられたものではない。

ゴードンは、小柄な体格や周囲からの評価によって、自分を集団の中の「黒い羊」と感じてきたという。選ばれにくい側から努力を重ね、やがて「史上最高」を意味する英語表現「GOAT」を目指す。その言葉が農場、少年スポーツ、地域活動を結ぶ名称になった。

現役引退後の選手について語るとき、監督、解説者、代理人、球団職員といった「野球界に残る仕事」が中心になりやすい。

ゴードンが選んだのは、野球界の中に残る道ではなかった。農業を始め、食料を地域へ戻し、雇用をつくり、子どもにスポーツの機会を与え、さらに所属先のない選手が野球を続けられる場所までつくった。

野球を捨てて農家になったのではない。

野球で得た資金、経験、知名度、人とのつながりを、故郷で長く残る仕組みに組み替えた。その中心に農場がある。

ディー・ストレンジ=ゴードンの第二のキャリアは、ユニホームを脱いだ後に始まった別の人生ではない。選手時代から考えていた「野球より長く続く仕事」が、ようやく形になり始めたものだ。